先週の一冊『日本のヤバい女の子 静かなる抵抗』

「今週の一冊」というタイトルで、毎週読んだ本について書いていこうと思っていましたが、レビューを書くのに時間がかかってしまうので「先週の一冊」になりました(笑)
今回は『日本のヤバい女の子 静かなる抵抗』(はらだ有彩 柏書房)。2018年に発行された『日本のヤバい女の子』から約一年後となる続巻です。

ヤバい女の子たちと友達になる

日本の昔話に出てくるたくさんの女性たちは、わりと、かなり、理不尽な扱いを受けています。ストレートに酷い仕打ちを受けたり、悪女ってことにされたり、自分の存在価値を「顔」とか「役割」とか、周囲に勝手に限定されたり。
現代のフェミニズム視点で読み直すと、昔話の女の子たちの状況はかなりヤバい。

でも、著者の考察は、それだけでは終わらないのです。

「この時彼女、何を思ってこういうことをしたんだろう」
「どんなキャラクターの人だったんだろう」
「私の友達にもこのタイプの子いるかも」

そうやって昔話の女の子たちに、友達みたいな気持ちで寄り添った時、いくつかのブレイクスルーの可能性に突き当たる。
それはわずかな可能性かもしれないけれど、大切な女友達が、そんなふうにあってくれたらいいな。
『日本のヤバい女の子』はそんな、現代と過去を結ぶ希望の書なのです。
20篇のエッセイの中から僭越ながら私のお気に入りを数篇ご紹介します。

オタクとヤバい女の子ー鬼を拝んだおばあさん

仏を拝まず鬼ばかりを拝んで一生を終えたおばあさんが、地獄に落とされて鬼たちからの手厚いファンサを受ける…という、共感とともに羨ましくなるような、愉快痛快なオタク女子話です。
しかし著者は、この羨ましい死後の世界よりも前の、おばあさんの身の上にも思いを寄せています。
ただ何かをひたすら好きというだけで、地獄の責め苦を受けなければならないの?

この章の最後は、すべてのオタク女子に送るラブレターのような言葉で締め括られています。

腕力とヤバい女の子ー尾張の国の女(今昔物語)

桁外れの怪力を持つゆえに、卑怯なやつをギャフンと言わせることもできるけど、数奇な運命を辿ることにもなる女性の話。

冒頭の物語の要約部分からすでに、「なんか私この人好きだな」と思いました。ひとつひとつの出来事に、「あーあ」と落胆はするけれど、どこか落ち着いている。それは、彼女が自分の力を信じているからかもしれません。物語では、その力は「腕力」という形で示されるけれど、本当の彼女の力は「挫けないこと」だったのかも。

世の中には、不思議なほどに挫けないパワーを持った女性がいる。そして、そういう女性はたいていマイノリティとして迫害されるけれど、彼女が彼女自身であることは、決して揺るがないのでした。

男とヤバい女の子ー姫君(とりかえばや物語)

こちらはWikipediaであらすじが読めるくらいけっこう有名なお話です。
私はこの物語、実際にモデルになる人たちがいて生まれたお話なんじゃないかなあ、と想像しています。トランスジェンダーは平安時代にもいた。もしくは単に、現代における、スポーツとズボンの好きな女性が、かわいいものとスカートの好きな男性が。

そして、きっと当時としては「いい人」の部類の原作者が、「彼・彼女らが悲劇に終わらず幸せになってほしいな」と願った時に考えうる最高の決着点がこれだったんだろうと思います。もしかしたら現実の過去のトランスジェンダー(または「女・男らしくない」人たち)には、もっと悲劇的なことが起こっていたのかもしれません。

しかし、モデルになった彼、彼女らがいるとしたら、こんな結末に満足するようなタマだったのか?と私は思います。

平安の世にトランジションした人々は、もっとパワフルな思想を持っていたかもしれないよ、と。

友達とヤバい女の子ーちょうふく山の山姥

パートナーも子もいない私にとって、今のところ何人かの大切な友達が、地上で最も愛しく思う存在です。
それでももちろん、中には依存的な態度で私を悩ませた友達もいる。縁あって近づいたけれど、実は全然気が合わなかった人もいる。でも、彼女たちの幸せは、ずっとずっと祈ってる。
そんな、なんだかんだあっても支え合わずにはいられない女同士が、「ちょうふく山の山姥」と「あかざばんば」の関係だったのかもしれません。

著者・はらだ有彩さんも、友達のことをすごく大事にしている人だなあ、と感じます。
この章に限らず、全編にわたって端々に、「これが自分の友達の身に起きたこと(被害)なら絶対に許さない」「もし友人が〜(危険な、無茶なこと)をしようとしたら制止するだろう」といった言葉があり、私もその文に自分の友達を重ねて共感します。それ、すっごくわかるわ私。

そして、はらださんの言葉を通して昔話の女の子たちに「もし自分の友達だったら」という視線を注ぐことで、時空を超えて、いろんな女の子たちが私の友達になります。

それはきっと、ニュースの中にいるまだ会ったことのないあの人とも、過去の歴史に生きたあの人とも、友達として手をつなぐ可能性を示しているのです。

素材出典:pngtree.com

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