出版したい!① ーひとり出版社の作り方・実況版

〈きっかけ書房〉開業の発想は、「個人事業で出版ができないだろうか」という思いから始まります。今回はその、出版業をやろうと思った理由をお話したいと思います。

ずっと業務委託の在宅ライターをしながら、「自分の今の仕事に屋号をつけることはできない」と思っていたことは以前の記事(今の世の中、教え渋らなくてもいいんじゃないか)にも書きましたが、ある日、「仕事を得られてから屋号をつけるんじゃなくて、何をやるか自分で決めて先に屋号をつけてしまったらいいのでは?」という考えに至りました。

では、私が仕事にできることはなんだろう。私が世に打ち出せる、価値あるものとは。そう考えた時に、やはりこれだなと思い至ったのが「JOC(ジョック)」です。
ジェーオーシーではありません。フランス語のJeunesse (若い)Ouvrière(働く)Chrétienne(クリスチャン)で、JOC(ジョック)です。1912年にベルギーで始まった運動なので、1946年設立の日本オリンピック委員会よりこっちが先です(笑)

私は25歳頃からこの「働く若者たちの運動」にメンバーとして関わり、2015年から4年間会長を務め、昨年卒業しました。もう青年のメンバーではありませんが、事務スタッフとして今も関わっています。
私が専門的に語れるもの、世に打ち出せる価値あるものは何かと考えた時、JOCをおいて他にはないと感じました。

そして、数年前に自分が言っていたことを思い出しました。

出版したいものがある

JOCは100年以上の歴史があり、世界各国に広がる運動です。そして、その理念や運動の性格が時代や地域によってブレないために、運動の原則と方法論を記した『基本三文書』というものが制定されています。
『DOP(原則宣言)』『TOE(働く若者の教育)』『ROLWA(生活と労働者アクションの見直し)』 という3つの文書を合わせたものです。

しかし、この文書の日本語訳が最初に作られた時、運動独自の語句の訳し方が統一されていなかったため、少し分かりにくいものとなっていました。
そこで、英語版と照らし合わせて、新訳版を作ることとなりました。英語力は乏しいものの、元訳もあり、文章を書くことは私がもともと生業にしている得意分野だったため、私自身が新訳版制作に当たりました。

そして、訳しながらこの文書の魅力に惹きつけられました。

国際的には1975年に最初に制定され、87〜91年にかけて改訂された文書でありながら、現代社会にも通じる問題が厳しく捉えられています。
特に資本主義経済によって貧富の差が拡大していることは、トマ・ピケティが2013年に指摘するよりもずっと前から労働運動の場では指摘され続けてきたことを、如実に感じ取ることができます。

新訳版が出来上がった時、私は思わず「出版したい!」と口走りました。
しかし、世間的にもあまり知られていない団体の内部文書を出版したところで、誰が手に取るでしょうか。本にしてくれる出版社さえ見つかりそうもありません。
結局その時は運動内部で共有するに留まったのですが、開業について考えた時、この時のモチベーションが蘇ってきたのです。

やっぱり、あの文書を出版したい。

運動の担い手を育てる運動

しかし、『基本三文書』のみでは広く一般に読んでもらえることは難しい。
そこで、より平易な文章とイラストも交えて、「若者が運動を始めるための手引書」のようなものを作り、その巻末に三文書全文を載せることを考えました。

JOCは、若者を運動の担い手として養成することを主たる目的としている組織でもあります。
すでに運動を起こすモチベーションを持っている人たちを集めるのでなく、そのモチベーションに至る前段階の若者たちを目覚めさせることが運動の一つの主旨なのです。
そして、養成された若者たちがまた、運動を通して他の若者たちに呼びかけていく。その中で自らもさらに運動の担い手と成長していく。
若者たちの養成のさまざまな段階においてサポートする運動の方法論は、『基本三文書』の中で明確にされています。

こういう運動は、社会の中でもかなり珍しいのではないかと思います。
社会運動のほとんどはすでに問題意識を持つ人たちのものであり、意識を芽生えさせるところから運動の担い手になるまでの一人の成長にフォーカスし、そのための方法論まで用意されているという運動は、なかなかないでしょう。

しかし、方法論があるとはいえ、決まりきったトレーニングをするわけではなく、一人ひとりの現状を見て、その人に合った養成の段階と方法を、若者たち自身が工夫を凝らして考えていくというのもJOCの特徴です。
そのため養成はとても難しく、本当に運動の意義を理解してアクションできる担い手となっていく人は、関わる若者たちの中でも限られていきます。

これから私が出版する本は、そんな養成の段階を助けるものとして、運動のためのガイダンスにもなり、社会の多くの若者への呼びかけにもなるものとしたい。
運動のガイダンスとしての資料は、三文書以外にも長い歴史の中でたくさん残されています。材料は運動内にすでに豊富にある。それらをより活用しやすいものにできれば。

今後、このサイトでは出版に至るまでの準備の過程や、私が出版を考える動機となった『基本三文書』の魅力についてより詳しく紹介していきたいと思います。

素材出典:pngtree

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