THINXという生理用品ブランドのことを、最近では知っている人も増えてきたようです。
THINXは、ショーツに給水素材が内蔵されている「ナプキン不要の生理用ショーツ」。びっくりするほど給水力が高いのに、薄くてごわつかず、私も以前から愛用しています。
最近では国内外でTHINX以外にも、ナプキン不要の生理用ショーツが出てきているようですが、限定販売だったり買い方がわからなかったりして、やっぱりまだ私はTHINX一択になっています。
私がTHINXを推す理由が、もう一つあります。それはTHINXが「生理のあるすべての人のために」と打ち出し、ボクサータイプのデザインなども発売しているからです。
トランスジェンダーの中には、性自認が女性でないけれど生理があるという人がいます。もちろん性自認はシスジェンダー女性でも、女性的なデザインを好まない人もいます。
「生理のジェンダー」は必ずしも女性ではない。しかし、世の中には「生理」に女性ジェンダーを重ねる商品や表現が溢れています。
THINXはトランスジェンダーの人々のために生理をジェンダーレスなものにしました。そのことは、トランスだけでなくシスジェンダーの多くの人たちにも影響する大きな意味があるように感じます。
『生理ちゃん』という漫画
最近映画化もされ、話題になっている『生理ちゃん』という漫画が、最初にウェブ上に掲載されたのは2017年でした。
「生理」を擬人化することで、生理中の女性のヘビーな状況と、そのことに無頓着になりがちな男性の意識の乖離をわかりやすく示した漫画として、多くの人に支持されました。
ところが、話題を呼んで回を重ねるようになると、シスジェンダー男性である作者・小山健氏自身が、あまりにも生理について無理解で知識のないまま描いてしまっていることが、だんだんと露呈しはじめました。
きっと作者さんご自身も、周りの女性が訴える「生理」のつらさについて理解したいと思い描き始めたのだと信じたいですが、身体の健康に大きくかかわるテーマを描くのに、知識の乏しさを埋める努力がかなり不足している稚拙さは、批判されてしかるべきものと思います。
実際にどういう問題があるかというと、
・「腹を思いきり殴られる」「気絶する」ほどの痛みの時点で婦人科を受診する選択肢が示されていない
・唯一婦人科を受診するのは卵巣のう腫を患った深刻なケース
・「生理ちゃん」と並列に見える形で、「性欲くん」「童貞くん」が登場する
・「性欲」を象徴するキャラクターが男女で違った形をしていて、ジェンダーロールイメージの強い表象である
・女性が生理でつらいのと同じくらい男性は性欲でつらいという描写がある
・男性は一貫して「悪意なく女性を傷つけがち」と描かれ、「意地悪」や「厳しすぎる」などの性質はほとんど女性のキャラクターが担っている
・生理が「男女の恋愛」と絡めて描かれるパターンの多用
それ以外にも、生理中やPMSの描写に「ちょっとそういう感じじゃないなあ…」と自身の感覚と照らして思ってしまい、なんとなくモヤモヤさせられる場面は多々あります。それは「生理のない人」が想像で描いているので、無理のないことなのかもしれません。
しかしここでハッと思います。
特有の体調不良について、その当事者でも専門家でもない人がそんなにフランクに描いて良いものなんだっけ?
もちろんさまざまな創作物の中に出てくる病気や体調不良のすべてに専門家の監修をつけるのは難しいでしょう。
しかし、これはダイレクトに「生理」をテーマにした作品。それなのに、掲載サイトのページに監修者のクレジットは見当たりません。(書籍版は未確認)
作者自身、パートナーなどの身近な女性から、「まだ理解していない」「そういうことじゃない」と言われ続けてこういう漫画を描くに至ったのかもしれません。
しかし、そもそも「女性」を「男性とは違う生き物」としてとらえてしまっていることに根深い問題があるように見えます。
同じ人間として、「特有の体調不良がある」ということだけ理解すればいいのに、「女性はこういう時こういうことを言う」というパターン化の落とし穴に、ずっとはまり続けているかのようです。
生理バッジ
『生理ちゃん』は生理に関わる企業や商品ともタイアップしています。そのひとつが、大丸梅田店にオープンした“女性のリズムに寄り添う”新ゾーン「ミチカケ(MICHIKAKE)」。
女性の性と生理にフォーカスした新売り場を大丸梅田店がオープン スタッフの“生理バッジ”も導入 | WWD JAPAN.com
生理用品やセルフプレジャーグッズ、生理痛やPMSに効くサプリメントなど、さまざまなメーカーが出店するという、それ自体は素晴らしいはずのこの企画と『生理ちゃん』は、オープン前からコラボし、そのPR漫画も公開しています。
この漫画に描かれている「生理バッジ」を大丸梅田店で実際に導入しようとしたことから、騒動は起こりました。
「生理バッジ」取りやめへ 大丸梅田店、意思表示は継続:朝日新聞デジタル
「生理についてオープンに話せるようにしよう」という試みで、「同じバッジを着ける」という画一的な方法を取ってしまうのは、いかにも日本社会の「老舗」らしい発想です。
漫画の中で想定されている批判は、どれも「生理を日向のものにすること」への反感です。しかし、実際に起こっている批判はそうではありません。
THINXの「生理のあるすべての人」に向けた取り組みをここで思い起こします。
生理についてオープンに語れるということは、多様性についてオープンに語れるということです。
女性でも男性でもそれ以外の性でも、人の体はそれぞれみんな違っています。形も、状態も、バイオリズムも、アイデンティティのあり方も。
その違いを語りやすくすることが、一人一人の健康において、本当に有益な「オープンさ」なのではないでしょうか。
まずは、単なる身体の生理現象である「生理」と、「女性的」とされる性質や性格や表象が、関係のあることのように考えるのをやめてみませんか。
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ちなみに…
生理についてはまた別記事で、生理休暇を取ることについてや、THINX以外にも私がバリおすすめしたい生理用品について改めて書きたいと思っています。
素材出典:写真AC